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許さない、ヘイトスピーチ

印刷用ページを表示する掲載日:2018年3月5日更新
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急増する外国人旅行者

近年、日本に観光で訪れる外国人旅行者が急増しています。特に中国や台湾、韓国など急成長するアジア圏からの旅行者が増えており、観光立国をめざして政府が平成32年度までに年間2千万人とした目標を早期に達成すると見込まれています。

この影響で国内では雇用機会や消費の増大、地域活性化などの効果が期待されるなど経済的に大きな恩恵を受けると同時に、対外的にはSns(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の普及によって世界中の人々に日本の魅力が伝わり、諸外国との相互理解の増進にも役立っています。

一方、日本における中長期在留在者と特別永住在留者を合わせた在留外国人も、212万1,831人(平成26年末)と前年よりも2月7日%増加しています。

さまざまなトラブルも・・・

このように、日常生活などさまざまな場面で外国人と出会う機会が増える一方で、文化や言語、宗教、生活習慣などの違いからさまざまなトラブルも発生しています。

例えば、公共の場などでのマナーの問題も指摘されていますが、人権に関する深刻な問題としては、外国人であるというだけで店舗への入店やマンションなど住宅への入居が拒否されたり、霊場の巡礼者が利用する休憩所などで外国人を差別する内容の貼り紙が相次いで見つかったり、さらにサッカー場で「ジャパニーズ・オンリー」と書かれた横断幕が掲げられるなど、外国人に対する差別や偏見が見られます。

特に近年では、在日韓国・朝鮮の人たちに代表されるような特定の民族や宗教、国籍の人々を公然と排斥する差別的言動が、いわゆる「ヘイトスピーチ」(憎悪表現)であるとして社会的関心を集めています。

ヘイトスピーチは暴力

このような言動は、当事者や多くの人に不安感や憎悪感を与えるだけでなく、人としての尊厳を傷つけたり、差別意識を助長させることに繋がりかねず、許されるものではありません。京都の朝鮮学校に対して行われた街宣活動では、拡声器を使って「朝鮮半島に帰れ」といった侮辱的な発言が数回にわたって繰り返され、その様子を撮影した動画がインターネット上でも公開されるなど悪質なものでした。

この朝鮮学校への一連の行為に対して、平成25年の京都地方裁判所は、「人種差別撤廃条約」で禁じられた「人種差別」にあたるとの初の判断をし、その違法性を認めました。この判決からも明らかなように、このようなヘイトスピーチは在日韓国・朝鮮の人々に対する社会的排除であり、暴力であると言えます。

また、ヘイトスピーチの特徴としては、その街宣行為の動画がネット上で公開されると、それにあおられた人たちが新たに差別的な発言をしたり、侮辱的な言葉を書き込んだりとヘイトスピーチが再生産されるという状況にあります。

異質なものを排除する社会

そして、在日韓国・朝鮮の人々に対するヘイトスピーチの問題は、日本におけるその他のさまざまな人権問題の様相を如実に表しています。つまり、ヘイトスピーチは在日韓国・朝鮮の人たちだけの問題ではなく、それは部落、アイヌ、琉球・沖縄の人びとに向けられた眼差しと根底では繋がっているように思われます。

さらに言えば、外国人であるという理由だけで受けた入店拒否や入居拒否などの差別的な扱いは、盲導犬や聴導犬、介助犬を連れた障がい者やLgbtなどの性的マイノリティの人たちが抱えている問題と同じであるということを考えると、人権問題と言われているものは、どこかその根底で繋がっています。

そして、これらに共通して言えるのは、異質なものを排除しようとする社会であるということです。

国際社会から厳しい指摘

日本は1995年に人種差別撤廃条約に加入しましたが、ヘイトスピーチはマスメディアやインターネット等で大きく報道されているうえ、平成26年7月の国連自由権規約委員会及び同年8月の国連人種差別撤廃委員会の最終意見で、政府に対してヘイトスピーチへの対処が勧告されるなど、国際社会からも厳しい指摘がなされています。

これらを受けて、この問題を新たな法律によって包括的に規制しようという動きに対して国は、人種差別撤廃条約を批准しているものの、処罰立法措置をとることを義務付けた同条約の第4条(a)及び(b)については憲法で保障された「表現の自由」との関係から留保しており、法的規制については慎重な姿勢をとっています。

そのため、このような行為を罰したり、被害者の尊厳や名誉を回復するといった制度はなく、ヘイトスピーチについては民法など現行法の下で対処することで、人種差別撤廃条約の実効性は確保できるという立場にあります。

多文化共生の視点から

国連からの勧告や国際社会の人種差別に対する厳しい姿勢を考えると、人としての尊厳を傷つけ、言葉の暴力であるヘイトスピーチをこのまま放置しておくことは、決してあってはならず、早急に何らかの有効な対策措置をとることが必要であり、人種差別撤廃条約をいかに実効的なものにしていくのかが問われています。

また、法規制などの枠組みを整備して適切な措置を行うのは国の果たすべき役割ですが、これは政府だけの問題ではなく、私たちがこれまで地道に取り組んできた多文化共生によるまちづくりの真価も問われていると言えます。私たちも日常社会レベルでの相互理解の促進や、いかなる差別も絶対に許さないという決意を示すことが、ヘイトスピーチだけでなく障がい者や性的マイノリティの人たちが抱える問題など、さまざまな人権問題をなくすことに繋がります。

人権に国境はない

2020年に東京オリンピック・パラリンピックの開催を控え、外国人と接する機会は今後ますます増えることが予想されます。そして、観光立国をめざす以上、だれもが住みやすい国や地域としてその魅力を国内外に発信し、活気にあふれた地域社会を築いていくことが不可欠です。

「人権に国境はない」と言われています。憲法や世界人権宣言にあるように、人種、信条、性別、社会的出身などによって個人の自由と権利が侵害される(=差別される)ことなく、私たち一人ひとりがそれぞれの多様性を認めあい、相互理解の心を持って、互いに尊重しあう社会を共に築いていくことが大切です。

キーワード

『あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約』(人種差別撤廃条約)
1963年の国連総会で、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国連宣言」が採択されました。その2年後の1965年の国連総会でこの条約が全会一致で採択され、1969年1月4日に効力を生じました。日本は1995年に加入しています。

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