学ぶことって楽しい!~すべての人に識字を~
世界人権宣言60周年
第二次世界大戦後、世界は過去の二度にわたる大戦の反省にたち、1948(昭和23)年国連総会において世界人権宣言を採択し、今年で60年目を迎えます。
世界人権宣言は、多くの国で憲法の人権規定のモデルとされ、子どもの権利条約などさまざまな条約に影響を与え、もっとも重要な国際的人権基準として受け入れられています。また、採択された12月10日を「世界人権デー」として、日本をはじめ世界中で記念行事が行われています。
60年目を迎えるにあたって、私たちはこの意義をもう一度認識し、この宣言にあるように、すべての人が、人種、皮膚の色、性、言語、国民的もしくは社会的出身、門地などによって差別を受けることなく、すべての権利と自由を享有できる社会を目指さなくてはなりません。
現代社会では、同和問題をはじめとして、女性、障がい者、ハンセン病患者、HIV感染者、性同一性障がい者に関する権利の未保障など解決すべき課題が多く存在しています。しかし、中でもこれらの課題にも共通し、人が人として当然に日常生活を送っていくうえでもっとも必要な、そしてより根底的な権利の問題として、文字の読み書きつまり「識字」があります。この識字について考えることは、「人権」というものを考える際の重要な要素のひとつです。
権利としての識字
識字とは、文字や言葉を読み書きし、理解できることですが、現在では社会生活を営むための基礎的な力や、社会に自ら参加する知識や技能なども意味しています。
世界には、今もなお何らかの理由で識字できない、いわゆる非識字者が多数存在します。そこで、世界の平和と経済・社会発展のために協力することを目的とする国が集まった機関である国際連合では、2003年から2012年までの10年間を「国連識字の10年」と決めました。この10年で識字についての行動計画を策定し、読み書きできない人を半分に減らすことを目標に、世界中でさまざまな活動に取り組んでいます。
厳しさを乗り越えて
日本でも、差別やいじめ、家庭の経済的状況などさまざまな理由から学校へ行けなかった人、また十分に教育を受けることができなかったために読み書きができない人たちがいます。そのため、文字を覚えたいという一途な思いから地域の識字教室に通っている人がいます。
本市でも識字教室として、人権文化センターで「富田林識字学級」が開かれており、多くの受講生がボランティアとともに学んでいます。
ここで学ぶ受講生は、残留孤児として日本に帰国し、言葉の壁から仕事上で失敗した経験を持つ人や、10歳のとき来日し、生活が厳しく学校に通えなかった83歳になる在日の人など、それぞれ厳しい状況を経験されています。
識字学級で文字を学ぶことはすごく楽しい
70歳の受講生にお話しをうかがうと、家庭の事情からその日の生活を送るので精一杯だったため小学校しか行けなかったそうです。また、街へ出ると、文字が分からないということが恥ずかしく、コンプレックスを感じてしまい、銀行や役所へ行くにも人に付き添ってもらわなければならないため、できるだけそういうところへは行かないようにしたという辛い経験を持っておられました。
それでもなんとか就職をしましたが、勤務先では文字が十分理解できないということを、口には出せずにいたそうです。そのため、最初はいろいろと苦労されたようですが、周囲の理解もあって長年勤めることができました。退職後、自分の時間が取れるようになり、3年前からこの教室に通っておられます。
教室の雰囲気も受講生どうしの競争がなく、ボランティアの人とのんびり自分のペースで学ぶことができるので、今は「学ぶことがすごく楽しい」と話されていました。
これからは、「今まで以上に多くの人に年賀状を出してみたい」と笑顔で意気込みを語る傍ら、「ひとこと言葉を書くのが難しい」と覚えた文字でも実際に文章にする難しさを実感されていました。
ボランティアによる手作りの教材
文字を覚えようと一生懸命に学ぶ受講生の前で、ボランティアの方が付きっきりで指導されています。学習をお手伝いするボランティアは受講生と1対1で教えることが多いのですが、決まった教材があるわけではありません。それぞれ学習目的が異なるため、受講生に応じた教材を自分で作成したり、みんなに興味を持って覚えてほしいという思いから、最近話題になっているものや新聞記事を拡大コピーして利用したりといろいろ試行錯誤されています。
このように、受講生の学習目的やひた向きに学ぶ意欲に応えながら、識字教室は多くのボランティアの人たちによって支えられています。
より多くの人が学べるように
本市の識字教室は1964年から始まり、現在は木曜日の朝と月曜の夜に開いています。日本語を学びたいという外国人も受け入れており、できる限り本人の学習目的に合わせるよう心がけています。
子どもの自立や仕事を退職したのを機にここへ来る人もいるように、受講生の年齢は高く、時間的にも精神的にも少し余裕ができたことが学ぶきっかけになっているようです。
しかし、社会には読み書きが困難であってもさまざまな事情から識字教室にも行けない人、さらに今現在も学校へ行くことができない人がいることも事実です。
すべての人に識字を
情報化社会と言われる今、新聞、雑誌、インターネットなどメディアを中心に、駅、スーパー、道路など見渡す限り生活のいたるところで文字による情報が氾濫しています。私たちは、すべての人がそれを当然のように理解していると錯覚してはいないでしょうか。多数者であるが故に少数者の視点が見えにくいのが現実です。
これからも、差別、いじめ、家庭の経済的状況などさまざまな事情で十分な教育を受けることができなかった人への理解と支援は必要です。教育を受ける権利はすべての人に保障されているものであり、また一時のものでもありません。
「識字」は、日本に限らず世界各地で重要な課題のひとつになっています。すべての人が、人種、性、言語、社会的出身、門地などによって差別を受けることなく、人として生きていくための基本的権利のひとつとして識字は大切です。
皆さんもこの機会に識字を通して人権について考えてみませんか。
『ひらがなにっき』 絵本を出版しました
今年9月、『ひらがなにっき』という一冊の絵本が出版されました。この識字教室に通う吉田 一子さんの識字作品集『なまえをかいた』を題材にしたものです。日記は、吉田さんが話したことを孫の司くんに文章化してもらい、それを吉田さんが間違わないよう力をこめて書き写しました。ひとつひとつの日記は短いながらも吉田さんの思いがじわっと伝わってくるとともに、長野 ヒデ子さんによる絵も見る人をほのぼのとさせてくれる絵本です。
府内では識字に関わる絵本はいくつか出ていますが、「識字」というものを直接扱った絵本はこれが初めてだそうです。