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中野遺跡の井戸

印刷用ページを表示する掲載日:2018年3月5日更新
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 なぜ発掘調査を行うか-。
 その目的の一つとして、文献資料には記録されていることの少ない庶民の生活の様子を知るということがあります。例えば、どんな家に住み、何を食べていたのか、どんなことを恐れ、何に救いを求めていたのかというようなことが発掘調査から分かってきます。
 今年5月から調査を行っている中野遺跡で見つかった中世の井戸も、そんな当時の生活を思い浮かばせる遺構です。直径1.4メートル、深さ2.8メートルの素掘りの井戸で、底には水が濁らないように人頭大の礫(れき)が敷かれてありました。この井戸の中からは桶(おけ)、羽釜(はがま)など、ふだん使われていた容器とともに、一端を尖らせた薄くて細い板が見つかりました。これは斎串(いぐし)と呼ばれ、まじないに使ったと考えられています。また、羽釜の一つには底にわざと小さな穴を開けてありました。これも、何か呪術的な意味があったのでしょう。このように井戸の中から日常的な生活用具ととも、宗教的なものも出土してきたのです。
 今日、私たちは水道の便利さに慣れてしまって、そのありがたさを忘れがちですが、昔の人々にとって井戸は生命にかかわる貴重な存在でした。水が濁らないように、枯れないようにと神様に祈ったのも当然でしょう。同じように、かまどの神様、かわやの神様など、日常生活のあらゆる所に神様がいると信じられていました。それは、生活を取り巻く自然への感謝と敬服の表れだったのです。
(昭和61年8月号)

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