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穴は語る

印刷用ページを表示する掲載日:2018年3月5日更新
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 発掘調査というと、まず思い浮かぶのは穴掘り作業でしょう。この穴は、大昔に掘られたところへ長い年月の間に土が埋まったものを、調査のためにもう一度掘り起こしたものです。土の色の違いなどを見分けて掘りますので、かつての通りに穴や溝のようすが再現されます。
では、これらの穴は誰が、いつ、何のために掘ったものなのでしょう。どの発掘現場からもたくさんの穴が見つかりますが、この問いにはっきりと答えられるものは、めったにありません。
 昨年12月に調査した錦織遺跡も調査者を悩ませた現場の一つです。約9m×12mの調査区域の中に111個の穴が見つかりました。出土遺物によって、平安時代の終わりから鎌倉時代の初めにかけての遺跡だということは分かったのですが、それ以上に何か人々の生活の様子をうかがわせるものはないように思われました。しかし、その中に、土師器の小皿がまとまって出てきた穴が三つありました。この皿をくわしく調べると一つの穴に入っていた12個と、もう一つの穴の29個は、土の質や仕上げの方法などそれぞれの穴の皿どうし全く同じだったのです。このことから二人の人が別々に一気に作り上げた皿が、おのおの別の穴に入っていたことが分かります。三つ目の穴から出た皿は、何人かの人の手で作られたものが混ざった状態でした。
 ある人が、ある時期に作った皿はまとめて同じ穴に入れられ、別の人たちが作ったものはいっしょにして一つの穴に入れられた。そこまでは分かりましたが、そのことが何を意味しているのか、じっと見つめていても皿は何も語ってくれません。雨乞いの為に埋められたのか、地の神に捧げられたものなのか、神様と置いた人の他には誰にも分からないのでしょうか。
(平成5年6月号)

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