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石器作りの名人

印刷用ページを表示する掲載日:2018年3月5日更新
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 石はたたきさえすれば割れますが、思うような形に割れ取るのは簡単なことではありません。まして、大きな石の魂から効率よく同じような石器を一つでも多く作ることは、たたき割る技術のうまさだけでなく、石の割れの性質を読み取りながら作りあげていくという、高い知能と技術が要求されます。
 そんな高い知能と技術を兼ね備えた人が今から約一万五千年前の富田林にもいました。  昨年4月、近鉄富田林駅の北西、若松町に広がる中野新堂遺跡で長さ42.5ミリ、幅24.5ミリ、断面不等辺三角形の旧石器時代のナイフ形石器が出土しました。先端の約3分の1が使用時に折れたらしく残っていません。一辺に鋭利な刃のあることからナイフとして使われたと言われていますが、先端の鋭さから槍の先ではないかとも考えられています。
 この石器は最初に発見された国府遺跡の名前を取って国府型(こうがた)ナイフ形石器と呼ばれています。二上山で採れる安山岩の一種であるサヌカイトを原料にして、一つの石の塊から次々と、まるでカマボコを切るように、横に長い剥片を作り出すことができます。この剥片は鳥が翼を広げたような形をしていることから翼状剥片(よくじょうはくへん)と呼ばれています。
 この翼状剥片を一枚でも多く取るため、石器作りの名人は石の割れる方向を見定め、たたく位置を山型に整えながら、効率よくたたき取っていきます。この翼状剥片に仕上げの調整を施してナイフ形石器を作り上げます。
 これと同じような石器が西日本、特に瀬戸内・大阪平野周辺のサヌカイトの産地に近いところで集中的に出土しています。この規格品のような翼状剥片を量産できる石器作りの工程を瀬戸内技法と呼んでいます。
 富田林では中野新堂遺跡のほか、中野遺跡・彼方遺跡からも国府型ナイフ形石器、翼状剥片が出土しています。
 どんなふうに割り取ってでもできるように思ってしまう石器作りですが、実は綿密な計画性を持って量産を図ろうとした古代の名人の技のすごさを改めて感じさせられます。
(平成6年2月号)

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