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嬉の観音さん

印刷用ページを表示する掲載日:2018年3月5日更新
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 4月17日、日暮れとともに、観音経を唱和する声が嬉の村中を流れる。12月17日と並ぶ、年2回の“観音さん”の日である。人々が農作業から離れ、勤め人となる過程で、ムラの行事も休日に行われることが多くなっている。そんな時代に、嬉の“観音さん”は昔ながらのお「17日」を守っている。
 準備は年行司を中心に、当日の昼ごろから。年行司とは、村の年間行事を取りしきる役目のことで、4戸ずつが1年交替で務めている。実際にあれこれと段取りを整えるのは、年行司の妻たちやムラのお年寄り。まず、会所を開けて掃除。会所の上座に長机を置いて祭壇をこしらえる。三方にゴボウ、ニンジン、シイタケ、カンピョウ、高野豆腐などを生のままあしらったナマゴゼン(生御膳)や御神酒、モチ、ミカンなどを供える。家々の庭や畑から持ち寄った季節の花が明るさを添える。壁には大きな軸が掛かる。三十三観音を描いた見事なものである。祭壇の横のもう一つの壇には四荷のお背駄が並ぶ。
 三々五々、村の大人たちはひと通り顔を出す。年行司の許に寄せられる祝儀はひとまとめにして祭壇へ。午後7時すぎ、ムラの人が務める導師のあとについて観音経の唱和が始まる。御詠歌も唱和して、小休止をはさみながらようよう終わるころは午前零時が近い。かつては、子供らも大っぴらに夜更かしをし、大人たちは夜明けまで読経し、談笑し、お日さまの昇るのを待ったという。
(平成3年4月号)

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