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紅の装い

印刷用ページを表示する掲載日:2019年5月13日更新
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 江戸時代の遺跡から出土する特徴的な物の一つに化粧道具があります。もちろん江戸時代以前に無かったわけではありませんが、庶民に手が出る物ではありませんでした。江戸時代の化粧方法は主に白粉化粧、眉化粧、紅化粧、お歯黒(既婚の印に歯を黒く染める)化粧がありました。
今回は江戸時代の化粧道具の中でも中野北遺跡から出土した「肥前磁器赤絵紅猪口」(写真)をご紹介したいと思います。
べにちょく
 「肥前磁器」は肥前国(現在の佐賀県と長崎県)で焼かれた磁器、「赤絵」は赤色の文様、「紅猪口」が用途と形を表しています。今でいう口紅のケースで、高さ2・5センチ、口径3・5センチの小型のお茶碗形をしています。
紅は高価であるため、器に満杯ではな刷毛で薄く塗り入れたものを販売していました。紅猪口の他には紅皿・紅板と呼ばれる紅容器も使われていました。
 さて、写真の紅猪口ですが、外側には文字が記されています。割れているため部分的にしか読めませんが「と起ハ・・・橋南詰」と読めます。文献によると大坂の町には常盤(と起ハ)紅という紅屋があったことが分かっています。そして、「・・橋南詰」は○○橋の南詰にお店があることを示しています。
 このように紅容器に紅屋の宣伝を記したものが遺跡からよく出土します。江戸時代の化粧業界も現代同様の販売争いが繰り広げられており、容器にお店の名前や場所、紅のブランド名などを描いて広告としていました。
代表的な紅化粧の一つとして江戸時代に大流行した「笹色紅化粧」があります。紅を塗り重ねると玉虫(金緑)色に発色することを利用した紅をふんだんに使う贅沢な化粧法で、下唇にのみ施します(ちなみに、上唇は紅色です)。
 もちろん庶民はこのような贅沢ができないため、流行の化粧法に近づくべく、新しい化粧法を編み出します。下地に墨を塗り、その上に紅を塗ると墨に含まれる油分によって鈍く光ります。これにより、「笹色紅化粧」に近い効果を得られました。
 今回ご紹介した紅猪口がどこの誰によって使われていたものかは分かりませんが、いつの時代も変わらぬ美への思いが垣間見える出土品です。
(平成31年3月号)

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